しんどい親子関係で消耗した幼いころの自分を、今救いにいく――成長と救済のエッセイ
『自分を好きになりたい。自己肯定感を上げるためにやってみたこと』わたなべぽん(著)コミックエッセイ(幻冬舎)
【概略】
幼少期のしんどい親子関係から、
自己肯定感が低くなってしまい、
「自分が嫌い」という辛い感情を
抱えて生きてきた著者、わたなべぽん。
そんな状態から脱するために、
自ら考えたり試したりしてきたことを
克明に記した感涙エッセイ漫画。
大人になった私が、
心の中にいる「小さい自分」の
”親になったつもり”で行動してみたら、
私が私でいることがラクになってきました。
(帯文より引用)
【みどころ】
part1 自分を嫌いになったきっかけ
『ほんのささいな失敗でも一度落ち込んでしまうと なかなか元気を取り戻せなくなってしまう私』
いつの頃からか、自分が好きになれないということに気が付いた、著者のぽんさん。
自分に自信が持てないから、人と付き合うのにも苦労が絶えなかったそう。
『今も昔もしょっちゅうオドオドビクビクしてる』
『自分って本当にダメ人間』
ほんの些細なことで自信を無くし→落ち込む
→塞ぎ込む→元気を取り戻すのに時間が掛かる
…というループを繰り返してきたんだとか。
なぜここまで『自分はダメ人間』と思い込むようになったのか、そのきっかけは、おそらく母との関係と推測する。
父方の祖父母と両親、弟を含む6人で暮らしていたというぽんさん。
小学校3年生くらいから忘れ物や無くし物が多く、片付けも出来なかったことから、しっかり者かつ気の強い母から体罰や暴言を受けることが多かったそう。
いつも母を怒らせてしまうから→ダメな子ども=自分が大嫌い
という考えが定着していったんだとか。
そしてその思いは、大人になってもこびりつき、数々の場面でぽんさんを苦しめることに。
『ある日ささいなことですぐ元の自分に戻ってしまう』
過去の著書からも分かるように、
などなど、様々な自己改革を達成したぽんさん。
その実績と、細やかで真面目な作品は毎回とても人気!
…なのに、なりたい自分になれた喜びが落ち着くと→また自分が嫌いな自分に戻ってしまうというぽんさん。
やたらと周囲に気を遣ったり、
過剰に親切にしたり、
自ら損をしにいったり、
【良い人であろうとする】ことでストレスをため、消耗する日々。
part2 本当の気持ち
『他の子みたいに私もちゃんと愛して欲しかった!!ちゃんと育てて欲しかった!!』
ある日何気なく観たドキュメンタリー
そこには、
『親には言い出せなかったけれど本当はやりたかったこと』
を、80歳にして叶えた女性が映し出されていました。
戦後で親に気を遣い、兄妹たちを養うために自分を後回しにしてきた女性が、お金も時間の融通も利くタイミングになって、高校に入学したという内容。
その、
『親には言い出せなかったけれど本当はやりたかったこと』
というフレーズを自分に当てはめて考えてみたぽんさん。
着てみたかった服、
自分で選びたかった文房具、
チャレンジしてみたかった習い事、
…
何より、ぶたないで欲しかった。
そうして本当の気持ちを解放した瞬間、
”子どもの頃の私”が飛び出してきて、切ない心の内を吐き出し始めた。
子どもの頃に満たされなかった思いをずっと抱えてきているからこそ、ちゃんと愛して育てて欲しかった。
そうして貰えなかった自分には価値がないと思い続けていた。
自分の本当の気持ちに気付いたぽんさん。
と、同時に、
- 当時やりたくてもやらせて貰えなかったこと
- 出来なくて投げ出してしまったこと
チャレンジしてみたら、何かが変わるかも?と、”子どもの頃の私”に向き合うことに!
『”大人になってから再チャレンジするするリスト”何から始めてみようかな』
子どもの頃にやり残したことーー
やりたくてもやらせてもらえなかったこと、
上手くできなくて投げ出してしまったこと、
とても沢山あるというぽんさん。
みんなと同じことが出来ない、ダメで変な子だから、母はガッカリしたり殊更に怒るんだ。
と、またまた”子どもの頃の私”が泣き出す。
小学校に上がる前から母との関係にこんなに悩んでいたことに驚きつつ…。
今の自分が、悩んでいた自分に声をかけるとしたら…。
と、言葉が浮かんだところで、少し救われた気持ちになったぽんさん
なかでも取り組みやすいのは、
あの頃欲しかった物を今買ってみる
【買ってもらえなかった物】には、単に親の財力の問題とは思えない胸の詰まるエピソードがあって切ない…。
part3 変わっていく未来と課題
『自分の力で今を幸せに変えていけるのだとしたら』
欲しかった物を買ってみたり、
食べたかったも物を作ってみたり、(朝食のパンケーキ、キャラ弁!)
”幼いころの自分”を受け入れ励ますように、丁寧に暮らす日々。
劣等感でへこんだり泣いたりする時間が減り、成長を感じられたことで、
過去を責めたり囚われたりし過ぎることなく…この先も生きていけるかも知れない…!
と、淡い期待と幸福感で満たされていくぽんさんは、とっても幸せそう。
作品後半では、実家と絶縁状態になった驚きの経緯や、
苦しい思い出の中にもあった母との幸せな思い出に、却って苦しめられたりと…
拗れた親子関係とその内面に迫っていきます。
自己との対話をし、全てが解決して受け入れられるようになったわけではなく、今後も向き合い自分なりの答えを探そうとするぽんさんの感性はとても素晴らしいと感じました。
誰かから投げ掛けられる、
- 親孝行は親の元気なうちに
- 子供を生んだら親の気持ちが分かる
- 親は大切に
という言葉がどうしも受け付けない方もいると思います。
誰がなんと評価しようと、当人たちの関係は、当事者にしか分からないものです。
…
拗れた親子関係に悩みのある方、
自分に自信が持てない方に、おススメです
【感想】
2018年の10月に発行されたこちらの本。
インナーチャイルドという概念に馴染みのある方も多いのではないでしょうか?
幼少期のネガティブな経験や感情が癒されることのないまま、大人になり生活上であらゆる問題にあたる…というもの。
ぽんさんのお母さんは、育児放棄や分かりやすい虐待を行ってはいないものの(まあ見方によってはほぼしているような描写もある)、三十数年経ってもぽんさんの心に暗い影を落とすほどの影響を持った人には違いなく、近頃巷で急激に知名度を上げた、毒親と言っていいかも知れません。
親子関係があまり上手くいかなかった、
親の愛情を感じにくかった、
早く自立をしなければならない状況にあった、
など、子どもの頃を振り返ると少し苦しい
という自覚のある人ほど、正直に申し上げて読むのが辛いかも知れません。
優しくて朗らかな印象のあるぽんさんご夫婦に、お子様が居ない理由もこちらのエッセイでハッキリとしましたし、それだけ根深い問題であったことが伺えます。
テーマが重たいにも関わらず、いつも通りのぽんさんの可愛らしいイラストに、真面目で細やかな”幼いころの自分”との対話や二人三脚によって、どんどんと『苦しいだけだった過去への思い』が変化していきます。
丁寧で温かい描写に、苦しい心の内を見つめる作業が、ほんの少しだけ楽になるような気もします。
出来損ないと思っていた自分への思いが変わったものの、親への思いはまだ課題を残したように終わった本作品。
現時点ではそれがぽんさんの答えでありベストなんだと思います。
誰かに傷つけられたり励まされたりして歩んできた成長への道。
とっても励まされる内容でした。
今日もお読みいただき、ありがとうございました。
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