ヒトのみ宿るエロスを発芽させる情動と、背景と。切なくて愛しい愛の物語

2019-04-08

『エロスの種子 1巻』もんでんあきこ(著)ヤングジャンプコミックス(集英社)

【あらすじ】

”エロス”ーー理屈や理性では計れない、人間のみに宿る”性”の源泉…

大学教授の妻でありながら夫には抱かれない女、珠子。

男に抱かれるためだけに生まれてきたような女、鞠子。

花が咲くように美しく成長する女、凛。

愛を貫いた男に愛され尽くした女、マリー。

過ちは人の常、許すは神の業、押し通すは悪魔の性……

鬼才もんでんあきこの放つ、傑作短編4作収録。

(この本の情報 より引用)

【みどころ】

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『人間の身体には 種が仕込まれている』

 

タイトルの、エロスの”種子”とはどういう意味なんだろうと思っていたんですが、

【人間の体に仕込まれた性の源泉】というモノらしく。

僅かな刺激で発芽し体中をつたって成長し、脳細胞をも支配するのだとか。

 

誰かに恋をした時、心がざわついたり体が反応する様、確かにありますよね。

エロスに支配されない人間などいるのでしょうか(`・ω・´)?

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『戸籍上では珠子は私の妻だ』

 

蒼井孝太郎は、実家の経営不振から仕送りが滞り、学業と仕事の両立に苦心する苦学生。

そんな彼を見かねて、大学教授・日下部先生の家に身を寄せることになった。

書生となった彼が家の敷地に足を踏み入れて出会ったのは、日下部先生の娘…ではなく奥さんの・珠子

父娘ほど歳が離れた二人の関係に、なんとも言いようのない感情を覚えるが…。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『キミは どこか若い頃の私に似ている』

 

書生になる経緯は少し前にさかのぼる。

苦学生であるという理由だけでエコ贔屓しようとしている先生に遠慮をしつつも…。

日下部先生は、蒼井に若いころの自分を重ねていたこともあり、彼の提案を甘んじて受け入れることに。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『旦那さまの代わりに 側にいてください』

 

季節は夏に。

大雨の降る日、日下部先生が大学に呼び出され泊まり込みになるとの知らせが。

心細さと、雷が大の苦手な珠子にふいに抱きつかれ、理性が飛んでしまう蒼井。

下宿してすぐに、先生と珠子の寝屋ごとを見てしまった蒼井は、ずっとずっと珠子に関心があった。

 

そしてついに、、彼女に手を出してしまう。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『性の快楽とは恐ろしいもので』

 

”まるでこうなることが分かっていた”かのように、落ち着いた様子で帰宅する先生。

先生の見ている前で、毎日行為に及んでしまうくらい珠子に溺れてしまう蒼井。

 

大学の勉強もままならず、退学。

実家に戻って家業を継いだ蒼井は、長者番付にも名を連ねるほど財を成した。

そんな彼の現状を知ってか、手紙を寄越してきた先生。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『まさか…』

 

”身内の者が訪ねる”と書かれた手紙と、そこに佇む一人の女性。

 

彼女の素性は?

 

【若いころの自分と似ている】と言っていた先生の真意は?

 

最後の最後で”まさか”の展開…!

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『踊り子になりてぇって意味 わかって言ってんのか?』

 

ストリップ・ロマン座の支配人、林のもとを訪ねた一人の女の子。

ボロボロの身なりにみすぼらしいいでたちの彼女は、鈴木一子(18)

親はおらず施設育ち…という訳アリな感じの一子は、戦後の米兵と売春婦の間に生まれて捨てられたと推測…。

昭和40年代はよくある話だった。

 

施設を出て行き場のない子どもが、劇場の踊り子になりたがるパターンは今までもよくあったらしい。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『美しかったねぇ まさに女神だった』

 

支配人の林は、若いころ南方へ戦争に行っていた。

生きて帰国できたものの、家族も家も全て無くなってしまい、敵国だったはずの米国に媚びるまわりの日本人を見て生きる気力を完全に失っていた。

そんな時、呼び込みに引っ張られて入った劇場、そこで見た女性の裸。

 

魅せられ、生きる気力をもらった劇場。

娯楽が多様化し、過激な性風俗も立ち並ぶなか、ストリップの経営は芳しくなかった。

それでも、劇場と踊り子を大事に思う林の原点は、エロスから生のパワーをもらったことに起因する。

 

もんでんあきこ:エロスの種子 1巻(集英社)

『ずっと 自分の身体は汚れていると思ってた』

 

離れていく客足を止めることは出来なかった。

踊り子たちも、稼ぎの良い風俗店へいくもの、実家へ帰るもの、どんどん減って行った。

メインを張るサクラが嫁ぐことにより、マリー(一子)が劇場を引っ張っていくことに。

 

マリーが劇場を訪れたきっかけ、その前にあった体験、劇場で感じたこと。

 

どうしても自分には出せない色気(エロス)を出すためにも、

 

好きな人に抱かれたい。

 

マリーの必死の訴えに林は…。

 

…。

 

短編は全部で4本、

どれもこれも、ひと癖もふた癖もある、悲しくて愛おしい男と女のエロス。

 

性と葛藤の混在こそヒト。

 

【感想】

すべて愛のしわざあとがきに、『こちらは全てハッピーエンドですが、”エロスの種子”はほの暗い展開や人が死ぬ』と描かれていて、

最近はハッピーエンド好きなのに…どうにも気になってこちらにも手を出してしまいました…!

もうすっかり先生のファンです(∩´∀`)∩♪

 

確かに暗い展開もあるのですが、どれもこれも、忘れられないほど強い印象の残るお話ばかりでした。

時代設定が戦中戦後あたりなので、『もしかしたら日本のどこかにこんな出来事があったのかも知れない』

と、思ってしまうようなリアリティと作り込みの細かさ。

 

もんでんあきこ先生=鬼才

と表現される事が多いようですが、そう感じざるを得ないくらい、絵もストーリーも卓越しています。

読めば読むほど引き込まれ、読後も考察したり、ずっとずっと心に残る凄まじい作品です。

小説や映像にも水平展開出来そう。

 

2巻ももちろん読んで、3巻は今月出るそうなので近いうちに。

 

今日もお読み頂き、ありがとうございました!

 

既刊リンク

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