近年増加する女性の異常な死亡例と、その背景とは?―女性の死に方

2021-06-02

『女性の死に方』西尾元(著)あらいぴろよ(作画)アクションコミックス(双葉社)

 

女性の死に方:あらすじ

ある日、ふとももが黒くなった女性の遺体が解剖室に運ばれてきた。

前日まで元気だったにもかかわらず、急死したようだ。

なぜ彼女は亡くなったのかーー。

 

美容整形、DV、アルコール依存症、老々介護……

現役法医学者が解剖経験から実際に見た女性の死の背景とは。

『女性の死に方 解剖台から見えてくる「あなたの未来」』コミック版。

(裏表紙より引用)

 

女性に多い死因がテーマ

西尾:美容整形クリニックで脂肪吸引の手術受けてたって

 

助手:あー…さっきの電話ってそれだったんですね

 

西尾:それで僕が昔解剖した女性も 脂肪吸引後 同じ死に方をしていてね

その女性も前日まで元気だったのに

術後 自宅で突然死した

引用元:女性の死に方

 

異常な死を迎えた(亡くなった原因がハッキリしない)遺体を解剖する、法医学者の西尾医師とその助手の女性看護師。

 

著者の西尾先生いわく、

 

近年、気になっているのが「女性の死」だという。

 

高齢者層の増加に加え、伴侶との死別や離婚、未婚によってひとり暮らしの女性が増え、亡くなり方にも変化が予想される。

 

現状、解剖に回ってくる遺体はおよそ7対3で男性が多いが、これから女性の比率が上がってくるのではないかと危惧している。

 

さまざまな女性の解剖事例から見えてくるその未来とは。

引用元:女性の死に方(双葉社)より引用

 

時代が変わるにつれ女性の置かれる立場にも変化が起き、その死因も様々になってきたと西尾医師は言います。

 

冒頭の事例は、韓国での美容整形で脂肪吸引をした女性が、その3日後に突然バスの中で亡くなったというお話。

 

脂肪吸引=直接死に結び付く

というわけではなく、手術を受けた状態はケガをしたのと同じで、傷を治そうとする作用によって一時的に血がドロドロになり、長時間同じ体勢などでエコノミークラス症候群を起こしやすいという事例。

 

こういった、女性ならではの死亡事例や事故を未然に知っておくことに大きな意義を見出す西尾医師は、

 

西尾:『いろんなケースを知っていれば もっと自由に生きられると僕は思うかな』

 

と、知ることで事故や不幸な死を避けられるはずとエールを送る。

 

 

女性の死に方という作品は、死亡した女性たちの事例をもとに

  • 生前の行動
  • 暮らしぶり
  • 家族や友人など、人とのやり取り

 

などなどを遺体の状態から読み取っていき、そこで得た知見から今の人生を幸せに生きる意味病気を早期発見する意識を持たせてくれたりするお話が中心です。

 

響いた事例を他にもご紹介していきます。

 

DV被害のその先

僕たちはもう少し 木下さんがなぜ亡くなったのか 考えないといけません

……木下さんは その車の所有者の男と内縁関係にあり…

DVを受けていた疑いがあるそうです

 

この事件をうやむやに終わらせたくはない ですね

引用元:女性の死に方

 

とある廃材リサイクルセンター近くに留められた車。

とてつもなく臭うその車の中には、毛布にくるまれミイラ化した女性の遺体が発見されました。

 

亡くなってそう時間の経っていない遺体と違って、硬くなった体(例えるなら枯れた木やカツオ節のような…)を解剖するのもひと苦労というなか分かったのは、

 

  • 臓器はカツオブシムシに食べられてほとんど無くなっている
  • 頭皮の裏側が真っ黒
  • ↑黒いということは生きている間に出血があった?

通常、真っ白なはずの頭皮の裏側が黒かったことに着目した西尾医師。

 

頭皮のほぼ全てが真っ黒だったことに違和感を覚えた二人ですが、頭蓋の中に出血が見られなかったことから、直接の死因ではないと判断。

その情報を警察に伝えると、推定死亡時期とあわせて捜査を進めていくと回答。

 

この女性の死を、殺人として扱っている様子の警察ーー。

身元が判明して分かったのは、ミイラ化した遺体は36歳の女性で木下美帆さん(仮名)、内縁関係のある男からDV被害を受けていたということ。

 

知り合いの医師から打撲に関するデータを貰った西尾医師は、”あざ”でも人は死ぬと明言。

  1. 打撲で筋肉が傷つけられ出血が起こり
  2. 腎臓の機能を障害するミオグロビンが血液中に流れ出る
  3. 打撲が全身の面積のうち2~3割を超えた場合、”急性腎不全”で亡くなるケースがある

 

ミイラ化した木下さんは内縁関係にあった男(夫)から売春を強要されており、その客から話を聞いた警察いわく、当時の彼女の体には確かに多くのあざが存在したという。

 

腎不全は治療しなければ必ず死に至るということから、全身打撲による皮下出血(あざ)で彼女は亡くなったと推定。

 

内縁の夫は車上生活をし、生活費を売春によって稼がせるという最低な人間だったにも関わらず、殺された木下さんはなぜ彼のもとから逃げなかったのか?と思いを巡らせるも…

 

保護されたとしても、DV被害者は加害者の元へ戻るケースが少なくないこと、他に頼る親戚がいない、一人で生きていく方法を知らないなど、もはや簡単に人生をやり直せる状態ではなかったのでは?と推測する西尾医師。

生きている間に出せなかったSOSを見過ごさずに究明すること、”ただのあざ”でも人は命を落とす、ということを周知していくことだと話します。

 

他には、

罹患数、死亡率ともにトップである乳がんを放置したことで亡くなった50代女性。

その背景には年老いた両親に心配をかけまいとする事情があったのではと推察されたり(家事育児、介護などで家族の世話を優先させる女性は多い)。

 

産院での分娩中に亡くなった女性は、羊水塞栓という、妊婦のみに起こる病気で亡くなったりと、女性である助手も、読んでいる自分も滅入る事例も多々…。

 

ただ、自分の立場に置き換えて考えてみると、ちょっとの異常を放置しない意識を持たせてもらえたり、定期検診は必ず受けようという気にさせてもらえます。

 

また、認知症を患った夫が、妻が亡くなったことを理解出来なかった(ゆえに死後1週間は経過してしまった)ケースでは、家族と住んでいても突然死したり、孤独死を迎えたりする事例を解説。

 

年の近い夫婦なら老々介護が待っていたりと、あまりいい未来を描きにくいかも知れませんが、作中で西尾先生は、

 

『…人生の先に”死”しかないのは誰でも一緒だよ』

『大切なのは『老々介護の終わり方』を知っていることです』

 

と、繰り返しになりますが、亡くなってしまったケースから、生きている自分たちができることは何なのか、避けられたはずの惜しい死、活かせることがあるか考えることが大切だと呼びかけています。

 

女性の死に方:感想

 

大好きなピッコマにて、何やら惹かれるタイトルと、作画を担当されたあらいぴろよさんが好きという理由で単話から読み進めたのですが、興味深い内容に一冊まるまる買って読んでみた作品です。

 

法医学者(法医解剖医)の立場と役割というものに今まで特段何かを感じた事がなかったのですが、原作を担当した、西尾 元先生の優しい語り口や、死と向き合う真摯、かつ前向きな姿勢に感化され、死から生へとつなぐ思いに心が動かされました。

 

あらいぴろよさんの作風でマイルドにはなっていますが、遺体や亡くなった際のシーンはやはり堪えるものがあり、寂しさなのか虚しさなのか分からない気持ちで、涙を流したケースも中にはありました。

 

30代の自分にとっての死というと遠い未来のように感じてしまいがちですが…

 

この作品の中には若くて10代、上は76歳の方。

その中間に30代や50代の方の身近な死があると知って、どういう理由で亡くなるのか、改めて知れて良かったなぁという気持ちが大きいです。

 

今日もお読みいただき、ありがとうございました!

 

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