思い出も愛するひとも、いつまでもそこに在りはしない。あなたと生きた日々

2018-07-25

妻が願った最期の「七日間」』宮本 英司(著)単行本(サンマーク出版)

妻が願った最期の「七日間」:概略

延命治療は、しないでね。

人工呼吸器、胃ろう、心臓マッサージ、やめてくださいね。

できるだけ、痛くない、つらくない、治療を選んでください。

私は、残念だけれど、小春とあなたを置いていくけれど、しっかり生きてくださいね。

天国で待っていますからね。ゆっくり来てください。

もしあなたがいない時間に私が死んでも、決して後悔しないでくださいね。

あなたと関わってきたそれまでの時間が大事なのだから。

突然何があっても、私はあなたに感謝し、ずっと愛して、幸せですからね。

(2016年8月31日の日記より)

 

妻が願った最期の「七日間」:みどころ

PART1 50年目の交換日記

あなたにノートを貸してから、春休みがきて、あなたは故郷の岐阜に帰ったのですよね。
そして突然、あなたから手紙がきました。
ノートを借りたお礼と、岐阜の鵜の小さな木彫りの置物が入っていました。
私は、びっくりしたけれど、嬉しくて返事を書きましたね。
それから、少しずつ話をするようになったのでした。
(本文p28より引用)

Twitterで拡散され話題を呼んだ、あるご夫婦の物語が、お二人のこれまでの歩みと、病と家族への思いとを併せて書籍化されました。

小さな新聞記事に綴られた奥さま、容子さんの闘病のすえ願った最期の七日間』

あの詩が生まれるに至ったご夫婦の背景、出会いから別れまでが、

  • 結婚50年目の交換日記のような、文章での対話形式
  • 奥さまである容子さんの闘病中の日記
  • 旦那さまである英司さん視点の夫婦についての思い

という形で構成されています。

 

お二人の出会いは早稲田大学構内で、18歳の終わりにノートの貸し借りという偶然から始まったそう。

若い頃のお写真が結婚式を挙げた時のもののみで、70代になってからのお二人を見てから若い頃の、それも本当に一番最初の邂逅とも言うべきお話を聞くと、何だか初々しく、胸が少しキュンとします笑

いわゆる電撃的な、鮮烈な印象を残すような出会いではなかったけれど、何気なくした会話、手紙のやり取りから距離を縮め、さらに奇しくも学園紛争で喫茶店で自主勉強などする境遇が、二人をより近付けました。

 

そうして卒業、就職と運び、その間にも同棲、結婚、出産、転勤と…

多くの夫婦も経験しているであろう、平凡な夫婦・家族としての営みを宮本さんご夫妻も歩んでいかれます。

18歳で出会って50年目の年、容子さんからの持ちかけで二人の物語】を振り返り、つむぎ合う事が始まったのでした。

 

次の日、軽井沢に向かう電車で、2人の性格が違うことを実感したことを覚えています。
発車まであと数分しかないときに、あなたが新聞やお菓子をホームの売店で買ってくると言って、席に座ってる私を残して電車を下りてしまいました。
「遅れないでね」と言ったにもかかわらず、ドアが閉まっても、あなたは席に戻ってきませんでした。
あわてましたよ、私。
すると、ニコニコしながら、別の車両から乗り込んで、ゆっくり歩いてくるあなたの姿が……。
この、のんびりさと、私の慎重でせっかちな性格とが、ずっと、お互いを助け合うこともあり、ぶつかり合うこともある……と、かすかに予感させたプチ事件でした。
(本文p49より引用)

社会人3年目の、25歳で結婚されたお二人。

容子さんは高校教師で、英司さんは山崎製パンの社員。

学生時代と違って、境遇の分かれる2人は会う時間をなかなか作れないながらも何とか繋がり合い、ようやく結ばれます。

新婚旅行先である、軽井沢ー金沢ー最後は英司さんのご実家である岐阜へ向かう列車での出来事。

慎重でせっかちだという容子さんを尻目に(?)のんびりマイペースな英司さん。

夫婦って確かに、お互いの気質に惹かれ合ってはいるものの根本的には異なっていて、でもそういう部分が助けになったり諍いの元であったり…

凄く分かるなぁと思ってうなずきながら読みました笑

うちは主人がしっかりしていて私が詰めが甘いのにせっかちなので、主人のフォローなしでは立ち回らないこともしばしば…

よその夫婦も似たところがあるんだなぁと微笑ましく思いました。

 

PART2 病が夫婦を変えてゆく

2016年9月9日
私が癌になったことで、あなたの人生を大きく狂わせてしまいましたね。
拓にも圭司にも、つらい思いをさせています。
まわりをとっても不幸にして、申し訳ない思いでいっぱいです。
でも、こればかりは選べない人生でした。
癌になりたくなかったのは、私自身が一番思っています。
「こんなにおかあさんに尽くしているのに」という言葉が、箱根に行く前の日にあなたの口をついて出たとき、あなたは、とてもたくさんのことを我慢して、つらい毎日なのだと思い、なんだか生きていて申しわけない思いになりました。
ゴルフにも行けない、働いたお金を毎月5万円も私のために出さなければならない、自由に遊ぶことも落ち着いてできない、そんな積もり積もった思いが、あの言葉になったのでしょう。
私が死んだら、嫌味ではなく、自由に残りの人生を楽しんでね。
ごめんね。本当に。
(本文p94、95より引用)

それまでごく普通の、一般的なご夫婦、家族として歩んできた宮本さんご夫妻に起きた大きな出来事は、2015年の夏に分かった小腸へのガン

事務的に告げられた余命宣告では平均で2年。

手術で取り除いても、取り切れないガン細胞は残ったため、化学療法で闘病することとなった容子さん。

【二人の物語】は一旦脇へ置き、容子さんの闘病中の日記が綴られています。

 

死ぬことへの恐怖、

生きることへの執着、希望、

副作用の苦しみ、

不安、哀しみ、

そして何より、愛する家族への思い。

 

一番身近で心を許しているからこそ、愚痴や弱音がこぼれ、寄りかかり、時に衝突してしまいます。

病気で苦しい時は、何もかもが嫌になって当たり散らしてしまったり、口をついて出た言葉で相手を傷つけ…後悔したりしてしまうので、容子さんも心がコントロールできないくらい、相当お辛かったのだろうとお察しします。

病に立ち向かい続けた容子さんと英司さん、そしてご家族。

容子さんが日記とともに綴った詩、

死期を悟ったからこそに願った、【最期の七日間】なんだと分かります。

 

PART3 それぞれの思い

(中略)
もしあなたがいない時間に私が死んでも、決して後悔しないでくださいね。
あなたと関わってきたそれまでの時間が大事なのだから。
突然何があっても、私はあなたに感謝し、ずっと愛して、幸せですからね。
(2016年8月31日の日記 )
(本文p116より引用)

辛くて辛くて、生きている事が苦しくなった時もあった容子さん。

あの言葉よりも先に書かれていた日記には、ご主人の英司さんへの愛情で溢れていました。

【これから】を生きられないと分かっていたからこそ、もがき苦しみ、生を渇望した容子さん。

だけど、

【いままで】のことがあったからこそ、ここらへんで人生の幕が閉じても悔いはないとの思いも込められています。

病に蝕まれながらも容子さんの胸には、これまでの素敵な人生の時間、苦しいことや大変な事さえ、輝かせるエッセンスとして彩られていたのかも知れません。

 

最後の章として【夫婦について】綴った英司さん。

上記の容子さんの日記を没後に読まれたそうで、彼女について知らないことや思ってもみないことに、初めて触れたそう。

夫婦というのは身近にありながらも…知っていることはまだまだほんの表面に過ぎないのかも知れません

容子さんは英司さんの思いに触れる機会を得ることはありませんでしたが、容子さんの忌憚なき心情の吐露を受けて、またそれに返すように思いを綴られています。

あの小さな投稿欄の記事からも伝わるように、やはりとても素敵なご夫婦でした。

 

最期の刻に思うことが、家族であったり妻や夫という、愛する人に対することであると良いなと思うと同時に、悔いのないように愛に溢れた日々を送れたら…

と強く思える物語でした。

いつまでも側に置いて置きたくなる、愛しい思いが詰まっています。

 

妻が願った最期の「七日間」:感想

Twitterで回ってきた新聞記事を見たのをきっかけに、宮本さんご夫婦の物語を知りました。

奥さんである容子さんの、最期に【七日間の時間が欲しい】という痛切とも愉快とも取れる思いに胸を打たれたのを覚えています。

18歳で知り合って52年間連れ添った夫婦の間には、平凡だけど愛情に満ちた時間が流れていた事が十二分に伝わってきます。

  • 家族に美味しいご飯を作りたい
  • プレゼントを用意したい
  • 女子会もやってみたい
  • だけど最後の七日目はやっぱりご主人と静かに過ごしたい

という、周囲を愛し、愛されてきた容子さんの素敵な人間性を窺わせます。

幸せな日々を旦那さん・ご家族と歩んで来た容子さんだからこそ、これからも続くと思っていた大切な時間を病に奪われた苦悩は相当なものだったと思います。

育児もひと段落して、これから、という時に、、

だけど文中で彼女は、『大変だったのはあなたよね』とご主人を気遣っていてとても驚きました。

病に負けないように周囲も気遣いながら、時々葛藤して、、

 

祖母、義父、祖父との相次ぐ別れ、として子どもの入院を経験した私は、病室での静寂と慟哭が蘇るようでした。

ページをめくっては今までの主人との出会いや歩みに思いを重ね、これから起こるかも知れない事態を想像しては胸が苦しくなり…

ドキドキしながら読ませていただきました。

同じような境遇にある方、また、結婚して家族の増えた方、

これからどんな人生を歩んでいくのか、お互いの関係と人生という時間を大切にしたくなる素敵な本だと思いますので、是非おすすめです。

 


 

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