平等に訪れる死は人に何をもたらすのだろう――終末期病棟の看護師奮闘記!
『お別れホスピタル 1巻』沖田 ×華(著)ビッグコミックス(小学館)
【あらすじ】
死にいく命が集う終末期病棟(ターミナル)で
働き始めて2年目の看護師・辺見。
さまざまな患者と出会う中で
彼女が目にした「真実」とは?
長寿が当たり前になった
今だからこそ
”人生と死”を問いかける
心に刺さる問題作、登場。
(裏表紙より引用)
【みどころ】
『もし自分に死ぬ時が来た時、それは一体どこなんだろうーー』
終末期医療とは、病気やケガ、老衰といった回復が見込めない患者の”終の住処”。
回復の見込みがない患者に対してのQOL(生活の質)の維持や、向上を目的とするんだとか。
様々な患者の人生を目にするたびに、
『一体どこでどんな風に人生を終えることになるんだろう』
と想像するのは、この病棟勤務が2年目になる看護師の辺見、32歳。
親元を離れ、恋人も親友も居ない辺見は、仕事一辺倒。
『わかったのは、子供というのは結局ーー「親が育てたように育つ」ということ。』
ーー終末期病棟にいる家族に会いに来る知り合いや家族は少ない。
なのに、連日面会に来るある女性を不審に思った辺見。
その女性は清井さんという入院患者の娘さんで、積年の恨みを病床の父親にぶつけていた。
異様な光景だが実は珍しいことではなくーー
親が振舞った結果を子どもはしっかり受け取り、それを恨みや暴力という形でやり返されることも少なくないんだとか(。-`ω-)
肺ガンで余命宣告された清井さんは、宗教にのめり込むあまり生活費のすべてを教団につぎ込み家族を困窮させ、
家族が病気になっても『信仰が足りない』と家族自身の所為にして、信仰を深めることにのみ生きてきた。
信じる心が救いをもたらすーーと謳っているはずなのに、ガンになってしまった父親をアッサリ追い出した教団を憎み、自分の人生をメチャクチャにした神様とやらを憎む娘さんは、父親がずっとずっと見つめ続けてきた宗教を否定することで自我を保っていた。
『「おじいちゃんorおばあちゃん長生きしてね」が口グセの家族ほど…”な~んにもしない!!”』
90歳になる小川さんは、入院歴13年のベテラン(?)患者さん。
脳出血で半身不随に加え認知症だとか。
90歳ということは1920年代生まれなので、10代で太平洋戦争に行っていたということに。
自分を『軍曹』と名乗り、戦後から今も相当額の軍人恩給もらっているそうな。
小川さんの奥さんは早くに亡くなったそうだけれど、その娘と孫とひ孫は、軍人恩給で豪遊できるほど。
戦地や在職年数、階級によって金額は変わってきて、本当に軍曹ならば陸軍の下級幹部(下士官)ということに。
女3人がホスト遊びにハマったりブランド品で身なりを固めたりする生き方が出来る金額ってどれくらいなん…?
小川さんが生きている限り、国からお金を貰い続ける事ができる親族は、彼を出来るかぎり『延命するよう』求める。
そんな患者と家族の関係を見ている看護師からすれば、
最終的に自分の生き死にを決めるのは家族なんだなぁ、と痛感させられる。
『お金で何でもできる』と思っている家族ほど、患者が亡くなった時のクレームは凄まじいものが、、、(;´・ω・)
『あれやこれやの仕事のグチに付き合ってくれては、いつも明るく慰めてくれる。』
福山マサさんは子宮がんで入院する74歳の、身寄りがない独身女性。
看護師の中には、”お気に入り患者”を見つけて、彼らと長かったり短かったりする入院生活を仲良く過ごすこともあるんだとか。
マサちゃんと呼ばれる福山さんは入院患者の中ではとてもおだやかで優しく、辺見のグチをよく聞いてくれるらしい。
辺見はマサちゃんの代わりに、ラジオ局へ歌のリクエストはがきを投函していた。
『人生はあまりにも、理不尽すぎる。』
人一倍気遣いができて優しいマサちゃん。
お父さんは戦争で亡くなり、お母さんも子どもの頃に死去。
15歳の頃からお屋敷で住み込みで働いていたが、地主さんが亡くなった55歳の時に、息子夫婦に無一文のまま放り出され、以来一人でずっと頑張ってきた。
ガンになって野垂れ時ぬところを病院に助けられたようなもの…という感謝の思いを口にするマサちゃんの姿は、
入院年数が長引くほど卑屈な性格になったり、することがなくて構ってちゃんになったりする人が多いのに、驚くほど謙虚で優しい価値観の持ち主。
ターミナルでは積極的な治療をしないため、苦痛を和らげる対症療法のみ。
沢山苦労してきて、やっとの思いで生きている人にも死は平等に訪れる。
どんなに良い人でも最後には苦しんで苦しんで逝くーー。
なんのための人生なのか、死は何をもたらすのか。
『久しぶりになんの予定もない休日ーー』
本編は患者さん相手に四苦八苦したり、死を悼んだりするけれど、休日は猫に翻弄されるというほのぼの笑
辺見のささやかな幸せにほっこりするなぁ(∩´∀`)∩!
女性患者さんからセクハラされる男性ヘルパーさんや、
ガンになった余命わずかな明るい男性、
出来る限りの延命をのぞまれる患者、
…
死に際にみえる輝くいのちの数々、、
生きるって、死ぬってなんだろう?
【感想】
透明なゆりかごも大好きで、沖田さんの作品は切なくて温かくて、心をえぐります。
ネット広告でもよく目にしましたが、絵が苦手で手を出せないこと数年…。
その間も、幾度となく広告を目にしたのできっと、多くの人が読むスゴイ作品なんだろうなと思い至り、意を決して手を出したら思った以上に心に響く内容でした。
透明なゆりかごを買った頃は子どもを持ったばかりということもあり、あの作品に描かれているような現実を受け止められませんでした。
それくらい真正面から描かれていると感じました。
お別れホスピタルは悲しい別名がついていますが、これが医療の現実なんだと痛感します。
看護師の日常、ターミナルケアを受ける患者の日常を切り取った素晴らしい作品であると感じました。
死に際にこそ『かつてどんな人生を送っていたか』が問いただされる瞬間は無いんだなと強く思ったし、逆算するように、死の瞬間に後悔や家族に迷惑を掛け過ぎて生きることの無いようにしたいとも思ったり。
今日もお読みいただきありがとうございました!
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