純潔こそ最も奇異なり。それぞれの事情と、歪に育まれるエロスと――
『エロスの種子 2巻』もんでんあきこ(著)ヤングジャンプコミックス(集英社)
【あらすじ】
“エロス”ーー理屈や理性では計れない、人間のみに宿る”性”の源泉……
跡取りを産むことを至上命令とされた女、妙子。
心的外傷を抱える孤独な男を尋ねてきた女、遥。
学生闘争の嵐が吹き荒れる頃、緊縛された女、順子。
戦中、陸軍幹部に囲われた芸姑上がりの女、千代。
性的異常のタイプはあれど、純潔こそ最も奇異なり……!?
絵師でストーリーテラー・もんでんあきこの放つ、最新傑作短編4作収録。
(この本の情報 より引用)
【みどころ】
『ずっとそう教えられてきた 何の疑問もなかった』
高度経済成長期に突入した1954年以降の日本ーー。
世の中は敗戦ムードから一転、自由や男女同権などが叫ばれていたがそれは都会のごく一部の話で。
古い造り酒屋に、【子を産むための器】として育てられ嫁いだ妙子は、
自分の処遇に何ら疑問を抱いてはいなかった。
『なのに 3年経っても子供ができないのは』
嫁いで3年、夫の幸治は妙子を可愛がり、毎晩のように抱いた。
しかし一向に妊娠する気配の無い自分に、次第に罪悪感を抱くように…。
いずれ継ぐと分かっているためか、遊び回っている幸治に代わって酒蔵を切り盛りする健気な妙子。
子供が出来ないことを理由に彼女をいびる幸治の母・貴子は、そんな幸治を咎めるわけでもなく、日々の鬱憤を妙子にぶつけていた。
『不妊を理由に嫁を追い出したってのは体裁が悪いってんで』
根が真面目な妙子は、甲斐性の無い夫のことも意地悪な姑のこともすべて飲み込み、ひたすらに絶えてしまう。
誰の目から見ても義母が彼女を虐めていることは確かだか、悪者になりたくない貴子は妙子を体よく精神的、肉体的に追い詰めていく。。
『これは なんという感情だろう』
病床の貴子のもとにやってきたのは主治医の塚本医師。
穏やかで寡黙だが心優しい彼と話す時間だけが、妙子の心を癒していく。
彼に対して抱く感情を少しずつ自覚していく妙子だが…。
『そうだ おまえに子供さえできればいいんだ』
姑にいびられた結果、怪我を負ってしまった妙子を見て激昂する幸治。
しかし【跡取りが産めない】から、そういう目に遭っても仕方ない(義母の気持ちを理解する)…と受け入れる妙子に、
子供が出来ない真実を告げる幸治。
毎晩のように受ける執拗な愛撫を、【愛されている】と甘受してきたけれど…
心の中に塚本医師が棲み着いたこと、
不妊の原因が自分になかったこと、
愛した夫の狂気から、
妙子の心は氷点に達する…!
…
ほか、
ラブドール技師×自分ソックリな人形制作を依頼する女、
日本画家×緊縛される女学生、
高官の妾×護衛の憲兵の秘め事、
時代もひとの思惑も様々な4作品が収録!
冒頭に紹介した作品の他に好きなのは最後の昭和20年ごろの戦時下の日本にあったお話。
戦争は戦場に行っていない人間の人生をも歪ませ、そんな環境と大人達に影響を受けた一人の少年のエロスの種子を育む要素となり…ひとつ前の物語(のちの日本画家)と繋がる、という展開。
とにかく秀逸!
【感想】
巻末には、直木賞を受賞した桜木紫乃さんとの対談も収録された2巻!
桜木紫乃さんの作品は読んだことがないのですが、ここで紹介された作品、それが生まれた背景が気になって手を出しそうです。
1巻も良かったですが、2巻も凄く良い。
どの作品も本当に綺麗に纏まっていて、読み応えがあって、面白いです。
選ぶ言葉、ストーリーの運び方がとにかく自然で、魅了されます。
3巻も近いうちに、今日もお読みいただきありがとうございました。
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