救いがない底辺の愛…少女の残酷な恋物語―君に愛されて痛かった 1巻

2018-08-19

君に愛されて痛かった 1巻』知るかバカうどん(著)BUNCH COMICS(新潮社)

君に愛されて痛かった 1巻:あらすじ

中学時代に遭ったいじめがトラウマで、同級生の顔色ばかり気にする女子高生・かなえは、援助交際で承認欲求を満たす日々を過ごしていた。

ある時、カラオケ合コンで知り合った他校の男子・寛に援助交際の現場を目撃される。

それでも優しく接してくれる寛にかなえは恋をする。

その想いが悲劇の幕を開くことにーー。

 

愛に飢え過ぎた少女の、小さな願いが辿り着く結末は?

(この本の情報 より引用)

 

君に愛されて痛かった 1巻:みどころ

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『ただ それだけだったのに』

 

冒頭がこの作品クライマックスのシーン

二人とも血塗れだけど、より傷を負っているのは女の子の方。

二人に一体何が…?

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『何とかしなきゃ…』

 

内気で人の顔色ばかり伺っている主人公・かなえ

 

彼女がそういう生き方を選択しているのは、中学時代に受けたいじめのトラウマから

 

普段一緒にいる友達さえ心から信頼する事は出来ず、すぐに謝ったりしょっちゅう困惑したりしているので、グループのリーダー・一花からは舐められている様子…。

 

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『俺も一緒に帰っていい?』

 

他校の男子グループとのカラオケ合コン、かなえは他人と上手く振る舞えないことに悩み、そそくさと退散。

グループの人気者・がそんなかなえを気に掛け、一緒に帰ることに。

 

さっそく出来たLINE(と思しき)グループの通知が鳴り止まない寛に対し、自分はそこから除外されている事に気づく。

 

SNSやモバイルツールによってこういう差は顕著になってしまうので、誰からも気に掛けて貰えないという思いをより濃厚にしてしまう…

 

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『はいっ かなみです』

 

『自分なんか、居なくてもいい事くらい知っている』

 

だけど、

 

『誰でもいい 必要とされたい』

 

そうもがくかなえは、寛とは一緒に帰らず、援助交際の待ち合わせ場所へ向かう。

 

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『今日も生きれてよかったーー…』

 

体を求められることで、必要とされている実感を得るかなえ。

 

これが歪んだ行為だと分かっていても、普段誰からも愛されも必要とされないかなえは、こういう形でも人から認められないと、生きていけないほど追い詰められていた。

 

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『寛君 もしかして他の人に…』

 

ホテルからの帰り道、お客さんと帰るところを自主トレ中の寛に目撃されてしまう。

 

『ああいうことは、好きな人とするもんじゃないの?!』

 

と叫ぶ寛の『普通』がかなえには分からない。

 

自分の秘密がバレてしまったのではと困惑するかなえ、頭の中は不安な思いが充満していく…。

 

この回で明らかになるかなえの実家は、上手く機能していない様子。

遊び呆けてていいねというお姉ちゃん(お母さんにしては若過ぎるので多分)、勉強を強いられてストレスが溜まっている小学生の弟と、家族中はすこぶる悪そう。

両親の姿は無し。

 

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『ごめんなさい!!!』

 

目撃された次の日、寛からかなえの連絡先を聞かれて憤慨する一花

 

一花は寛が好きなので、寛がかなえを気に掛けているのが気に入らないらしい。

 

『誤解だし、好きでもなんでもない(むしろ大っ嫌い!!!)』

答えるかなえ。

 

この時点で好きでないのは確かで、むしろ自分の秘密をバラされないか、怒られないかばかりを気にしているので、寛の行動の真意まで汲む余裕はない。

 

一花に頼まれ、縁結びの神社でお願い事をする三人。

 

バラバラに帰ったはずが、寛に追いかけられ、この間はごめんね』と謝ってもらうも、不安な気持ちでいっぱいだったかなえは吐いてしまう。

何があっても包み込んでくれる寛に、初めて男性に(援助交際以外で)そこまで優しくされたので恋をする…。

 

知るかバカうどん:君に愛されて痛かった 1巻(新潮社)

『私が欲しいもの いっぱい持ってるくせに!!!』

 

しかし寛に抱き締められたところを一花に見られてしまい、自分が寛を好きな気持ちをかなえも知っている筈なのに…と、グループから外され、他の子たちからも嫌がらせを受けてしまう。

 

一花の感情以上に、周りがかなえへの不快感を高めているような描写にゾッとする。

 

誰も、勘違いかもとか、その状況に事情があったのかもとは言わない。

かなえの行動はすべて一花への裏切りとも思えるように彼女らも無責任に盛り上げていく。

 

寛と出会うまでは、知らなかった感情。

かなえの手には、愛はただのひとつもなかった。

ようやく掴んだ小さな幸せ。

 

スマホを取り上げられて、寛との思い出を踏み躙られそうになり激怒するかなえ。

大人しいようで激情も持ち合わせている彼女の本体はどちらなんだろう?

 

かなえを殴り『許さないから』と吐き捨てる一花。

だけどそれはかなえも一緒で、

一花に復讐すべく、仲間に声をかけ動き出す。

 

まさかの復讐展開!

気弱ないじめられっ子だと思ったかなえはとんでもない手段を持っていて、一花はいとも簡単に拉致されてしまう。

 

どうなる…!!!

 

君に愛されて痛かった 1巻:感想

 

双葉社で一度打ち切りになった作品が、新潮社に移りコミックに!

知るかバカうどん先生は商業デビューする前から異色の存在で、絵も扱うテーマもとっても好きでした。

 

凄惨なテーマが多いので、同人誌もコミックも家には置いておけないのが非常に残念ですが…

各作品に於ける、登場人物たちの心情や背景を描く鋭さ、えぐさには毎度感服します。

 

それらがこの方の作品の美点だと思っていて、心理描写のリアルさ、圧倒的に暗く切なくもがくほど苦しいのですが、ページに、絵にぶつける熱量や訴えに都度共感してしまいます。

苦しいけれど見たくなる、魔力に近い魅力を持った作品だと感じます。

 

かなえの、愛されたいもどかしさも、嫌われたくない苦しみも、焦りや葛藤も、まるで自分が体験しているかの様にリアルに描かれています。

自己肯定感が低く自分の事しか考えていなかった学生時代は私もこんな感じでした。

 

苦しみや生きづらさの原因について理由が分かっている人には強く響くはず。

 

そういう事について考えたりそもそも感じた事がない人には、作中の寛くんのように、『普通』という言葉を使い、そつなく生きていけるんだと思います。

この作品は家庭の不和がベースとして、精神的に不安定なかなえは中学時代のいじめ経験が拭えず高校生になった現在も生きずらさを感じ、歪んだ愛を引き換えに自分の価値を確かめるのがデフォとなっています。

 

誰かに真っすぐに愛される経験が無ければ、かなえは満たされ自己を肯定する機会に恵まれるはずもなく。

援助交際の現場を見られても、『真っ当な』道に戻そうとする寛くんに惹かれるかなえに、このまま平穏が訪れて欲しいだけなのになぁと。

最底辺の境遇から救いもない展開の多いバカうどん先生の作品。

 

1巻完結かと思ったらまさかの展開で続くみたいなので、とにかく次巻が楽しみ!

 

既刊リンク

知るかバカうどん

芽吹く憎悪…未成熟な感情は、暴力性を孕み周囲を傷付け尽くす―君に愛されて痛かった2巻

 

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